③ 中和反応の量的関係

酸と塩基が過不足なく完全に中和するとき

酸のH⁺の物質量 = 塩基のOH⁻の物質量

 上の関係式が成り立ちます。例えば、1〔mol/L〕のNaOH(強塩基、α=1とする)水溶液1〔L〕中には、OH⁻は1mol存在しますが、これを中和するとき1〔mol/L〕のHCl(強酸、α=1とする)は1〔L〕必要となります。それでは、1mol/LのCH₃COOH(弱酸、α=0.01)水溶液では何〔L〕必要でしょうか?答はこの場合も1〔L〕です。
1〔L〕のCH₃COOH水溶液中にはH⁺は0.01molしか存在しませんが、その0.01molのH⁺が0.01molのOH⁻と反応してH₂Oが生成し、いったんH⁺が0となると考えます。しかし、CH₃COOH水溶液中の未反応のCH₃COOH分子(0.99mol)がすぐにその100分の1だけ電離し、再びOH⁻と反応しH₂Oを生成し、また、H⁺は0となりますが、すぐに未反応のCH₃COOH分子がその100分の1だけ電離して・・・このような反応が便宜上繰り返されていると考えると、結局、電離度α=0.01のCH₃COOH水溶液であっても1〔L〕中のCH₃COOH分子が1molのH⁺を放出することになります。したがって、中和反応の量的関係においては電離度は関係なく、酸・塩基の水溶液どうしの反応では次の公式が成り立ちます。
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ただし、強塩基を強酸で中和した場合と弱酸で中和した場合とでは中和点での液性が異なります。すなわち、前者の場合、水溶液は中性となりますが、後者の場合は生成した塩の加水分解により弱塩基となります。

 最後に少し難しくなりますが、NaOHとNa₂CO₃の混合物をHClで滴定する場合を考えてみましょう。

この滴定においては、下の3つの反応(①、②、③)が起こります。
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問題集や参考書によっては、第一中和点において①、②の反応が同時に完結するかのような曖昧な表現になっているものをしばしば見かけますが、実際には①の反応、すなわち、NaOHのOH⁻とH⁺の中和は3つの中和反応のなかで最も速く反応が進みます。したがって、①の反応が終了した時点で大半のNa₂CO₃は中和されず、未反応のNa₂CO₃の加水分解により、水溶液はかなり強い塩基性になっています。そのため、①の中和反応による急激なpHの変化、いわゆる、pHジャンプは認められず滴定曲線はなだらかな右下がりの曲線になっているのです。

 第一中和点は②の反応の終点を表しています。この中和点では生成したNaHCO₃の加水分解により、水溶液はわずかに塩基性になっています。第一中和点以降に滴下されたHClは③の中和反応に使われ、③の反応の終点が第二中和点になります。第一中和点から第二中和点のあいだに滴下したHClの物質量は③の反応式よりNaHCO₃の物質量、すなわちNa₂CO₃と等しくなります。

 上の例は定性的な解説になっていますが、内容をよく理解して頂ければNaClやNa₂CO₃の物質量を求める計算問題も簡単に解けると思います。入試や模試にはよく出題されますから、ぜひ、チャレンジして下さい。


今回は理論化学の中でも重要な位置を占める酸・塩基と中和反応について説明したいと思います。

① 酸・塩基の定義
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② 酸・塩基の強弱

 酸・塩基の強弱は、電離度(α)によって決まります。すなわち、αが大きい(1に近い)ものが強酸(強塩基)であり、αが小さい(0に近い)ものが弱酸(弱塩基)となります。
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〈捕捉①〉HNO₃、H₂SO₄以外はハロゲン化水素です。HFは水素結合により数個の分子が会合しています。したがって、水素結合に関与して会合分子(一つのかたまり)を作っている状態では、H原子は電離できませんから、電離度が小さくなるのです。
*5月号でも触れましたが、HFが弱酸であることは、会合説以外の考え方で説明されることもあります。

〈捕捉②〉上の電離度を表す式において、分母は溶かした電解質~となっていますが、塩基の場合NH₃(分子)を除くと、すべてイオン結合をしていますから、溶けた物質はすべて電離します。ですから、上の式は塩基については、少し正確さを欠いた表現になっています。したがって、水によく溶ける塩基が強塩基であると考えればよいでしょう。ちなみに、水によく溶ける塩基をアルカリといいます。

〈捕捉③〉酸・塩基の強弱は、後に学習する塩が加水分解したときの水溶液の液性に関係しますので、必ず覚えておいて下さい。

皆さんは元素と原子の違いを説明できますか?

 化学の初歩的なことでないかと思われそうですが、良い説明のある本はあまり見たりません。

 簡単に言えば、陽子の数によって決まる粒子が元素です。現在のところ100余りの元素が存在します(人工的に合成されるものを含む)。例えば、水素元素と言えば、1個の陽子を持つ元素ですが、その中に中性子の数が異なる粒子(同位体)が存在しますが、それらが原子です。ですから、水素原子は ¹H~³H(天然に存在)、⁴H~⁷H(天然には存在せず、合成による)の7種類が存在することになります。ちなみに、原子は3000~6000種類存在すると言われています。

 次に、物質量の単位〔mol〕について説明しましょう。molが出てくるあたりから、“化学が分からなくなってしまった”という声を耳にすることがありますが、実際にはmolそのものは、きわめて理解しやすい概念です。すなわち、1molとは粒子(原子・分子・イオン等)が6.02×10²³個集まった集団の単位に過ぎません。よく例に出されるように鉛筆が12本あれば、1ダースというのと同じで、水素分子1molといえば、H₂(2原子分子)が粒子として6.02×10²³個存在するという意味です。ただし、分子を構成するH原子の数は2mol、すなわち、2×6.02×10²³個になります。

 それでは、6.02×10²³という数(アボガドロ数)はどこから出てきたのでしょうか。その答えは原子量の基準を¹²C=12としたところにあります。すなわち、アボガドロ数とは¹²Ⅽ原子12〔g〕中の¹²C原子の数なのです。(12÷1.993×10⁻²³で得られます)

アボガドロ数=6.02×10²³

 このように、¹²C=12を原子量の基準とし、アボガドロ数個の粒子の集団を1molと定義することによって、例えば、Cl₂(分子量71)1molの質量は71〔g〕、NaCl(式量58.5)1molの質量は58.5〔g〕と、分子量や式量に〔g〕をつけた数が物質1molの質量となります。

 次に、化学反応式が表す意味について考えてみましょう。
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上に示す化学反応式より、反応式の係数の比が物質量(mol)の比を表していることが分かります。また、反応物(反応式の左辺にある物質)の質量の和と生成物(反応式の右辺にある物質)の質量が等しい(質量保存の法則)ことが分かります。さらに、上の反応のように反応物及び生成物が気体であれば、係数の比は反応する気体の体積の比に等しくなっています。

 化学反応式に基づく計算問題は基本的には比例計算を解いているに過ぎません。比例計算ができない人はいないと思いますから、上の反応式で量的関係を理解すれば、後は化学反応式さえ作ることができれば、どのような計算問題でも解けるはずです。

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