2018年09月

今回は化学反応と熱(熱化学)について説明したいと思います。みなさんは化学反応式と熱化学方程式の違いを正しく理解していますか?もし、自信がなければ、まず、Vol.3で説明した物質量及び化学反応式の量的関係を復習して下さい。

 ここでは、水素が燃焼して水が生成する場合を例にとってそれらの相違点を考えてみましょう。
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①が化学反応式、②が熱化学方程式ですね。①と②の違いは係数、左辺と右辺をつなぐ記号、物質の状態の表記の有無、熱量(反応熱)の表記の有無です。いくつかの相違点がありますが、最も重要なポイントは化学反応式はその係数が反応にかかわる物質(反応物、生成物)の物質量(数)の比を表しているのに対して、熱化学方程式はその係数が物質量そのものを表している点です。すなわち、②の式は気体のH₂分子1molと気体のO₂分子0.5molが反応して、液体のH₂O分子が1mol生成し、そのとき286 kJの熱が放出(発熱)されることを表しています。また、みなさんはあまり意識されていないかも知れませんが、熱化学方程式中の化学式(H₂、O₂等)は単に物質の種類を表しているだけでなく、その物質がもつエネルギー量も表しています。等式の両辺は同じ物理量でなければなりませんから、右辺の1つの項にkJ単位のエネルギーがあると言うことは、両辺の化学式もエネルギーの単位をもっていることになります。ちなみに、H₂分子がもつエネルギーは主に結合エネルギーですが、その他にも、運動エネルギーや分子間力による位置エネルギー等が考えられます。

 ①の化学反応式について念の為に補足すれば、2H₂やO₂はH₂分子が2mol、O₂分子が1mol反応すると考えることができますが、H₂分子が2個、O₂分子が1個反応すると考えても構わないのです。要するに、上述のように反応式の係数は物質量そのものを表しているのではなく、反応する物質の比を表しているのです。

●反応熱の種類

 反応熱には、燃焼熱、生成熱、中和熱、溶解熱がありますが、間違いやすいものとして、生成熱(物質1molがその成分元素の単体から生成)があります。
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①、②式では、ともにCO2が生成していますが、①式では反応物のCOは化合物ですから、①式はCO2の生成熱を表す熱化学方程式ではありません。
*ちなみに、中和熱は、酸と塩基の中和により水1molを生じる(H++OH- → H₂O)ときに発生する熱ですから、強酸と強塩基の中和反応では酸・塩基の種類に関係なく、ほぼ56kJです。

―ヘスの法則とその利用―

 “反応熱は反応の経路によらず、反応のはじめの状態と終わりの状態だけで決まる”と言うのがヘスの法則です。

 例えば、一酸化炭素の生成熱を実験より求めようとすれば、黒鉛を不完全燃焼させてすべてをCOの段階で止めなければなりませんが、実際には完全燃焼したCO₂が同時に生成してしまいますから、COの生成熱を測定することは困難です。そこで、ヘスの法則を利用します。下の図を見て下さい。
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この図で、はじめの状態はC(黒鉛)+O₂、終わりの状態はCO₂です。図は、はじめの状態から直接終わりの状態へ反応が進めば394kJの熱が放出されること、また、いったんCOが発生し、それが燃焼してCO₂が生成する2つの経路が示されています。ヘスの法則によれば、394kJと(Q+283)kJが等しいことになります。よって、COの生成熱Qは111(=394-283)kJとなります。

 このようにヘスの法則を利用すると、実験では求めることが難しい反応熱も計算により求めることができます。

次は電気分解です。電解質の水溶液や融解液に電極を入れ、直流電源を通じて化学変化(酸化還元反応)を起こす操作を電気分解(電解)と言います。このとき、直流電源の正極につないだ電極を陽極、負極につないだ電極を陰極と言います。
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水溶液の電気分解では、水溶液中のイオンのうちイオン化傾向の小さいイオンから極で反応します。

 それでは、各電極での反応をみていきましょう。

〔陰極〕
基本的にはイオン化傾向の小さい金属ほど反応しやすいと考えて下さい。ただし、Zn2+~Pb2+の場合、条件(濃度や電圧)によって金属が析出する場合と水素が発生する場合があります。そのため、試験での出題はかなり少なくなりますが、過去には硫酸亜鉛水溶液等の電解が出題されたことがあります。また、さらにイオン化傾向の大きいK+~Al³+の場合は還元されることはなく、水溶液中の水の電離で生じたH+が還元(2H₂O+2e-→H₂+2OH-)されて、水素が発生します。

〔陽極〕
陽極では陰イオンが反応します。

陰イオンのイオン化列 NO₃-、SO₄2- > OH->Cl- > Br- > I-

 この場合も上記のイオン化傾向の小さいイオンから反応(酸化)します。NO₃-やSO₄2-は陽極で反応することはありません。これは、各イオンを構成するN(酸化数+5)原子やS(酸化数+6)原子がすでに最高酸化数に達していますから、陽極でさらなる酸化がおこることはないのです。このような場合は水溶液中の水の電離で生じたOH-が酸化(2H₂O→O₂+4H++4e-)されて、酸素が発生します。

 水溶液の電気分解において注意すべき点は、陽極の材質です。白金や炭素のように酸化されにくいものが使用されていれば、問題ありませんが、イオン化傾向がAg以上の金属が電極として用いられ、水溶液中にもその金属のイオンが含まれる場合、陽極自体が酸化されて水溶液中に溶け出します。溶け出した金属イオンは陰極上に析出します。このような原理を利用したのが電解精錬や金属めっきです。ちなみに、陰極では電子が送り込まれ、還元が起こりますから、鉄等の金属が極板として用いられても特に変化は起こりません。

今回も前回に引き続き理論の中でも特に重要な酸化・還元(化学基礎)とその応用である電気分解(化学)について説明したいと思います。

 まず、酸化・還元です。物質の酸化・還元は酸素や水素のやりとりで定義(狭義の定義)されることもありますが、一般的には、酸化数という数値を導入し、その増減により原子の酸化の程度を表します。

原子の酸化数を求める場合、いくつかの規則がありますから、まず、それを覚えて下さい。

① 単体中の原子の酸化数は0とする。
② 化合物の構成原子の酸化数の総和は0とする。
③ 化合物中の水素原子の酸化数は+1、酸素原子の酸化数は-2、アルカリ金属の酸化数は+1、アルカリ土類金属の酸化数は+2とする。
④ 単原子イオンの酸化数はイオンの電荷に等しい。
⑤ 多原子イオンを構成する原子の酸化数の総和はイオンの電荷に等しい。
ここで重要な点は、イオン結合からなる化合物と共有結合からなる化合物とでは結合の仕方が異なるということです。例えば、イオン結合であるCuOであれば、Cu2+、O2-であるので、Cuの酸化数+2、Oの酸化数-2と電子の授受が電荷数に反映され、それが酸化数になっています。

 それでは、共有結合からなる化合物の場合はどのように考えればよいでしょうか?例えば、H₂S(H-S-H)の場合、H-S間の共有電子対はイオン結合の場合と異なり、どちらか一方の原子に属するということはありません。しかし、このような共有結合からなる化合物でも共有電子対を電気陰性度の大きい元素に割り当て、イオン結合よりなる化合物のように考えて酸化数を求めます。H₂Sの場合、電気陰性度はS>Hですから、H+、S2-のように考えてHの酸化数は+1、Sの酸化数は-2となります。

 次に、酸化剤と還元剤の反応式(半反応式)の作り方を考えてみましょう。

① 酸化数の変化する部分を書く。(この部分だけを覚えておけば、以下の手順に従って半反応式を完成させることができます)
② e-を加える。(酸化剤は電子を奪うので左辺に、還元剤は電子を放出するので右辺に)
③ 両辺の電荷数をH+で合わす。(酸化剤の場合は左辺に、還元剤の場合は右辺に)
④ 両辺の原子数を合わす。

〈酸化剤の例〉
KMnO₄
① MnO₄- → Mn2+ ( Mn7+ → Mn2+
過マンガン酸イオン中でMn原子の酸化数は+7になっています。これは、Mnの価電子がO原子に奪われMn⁷+になっていることを表しています。酸性状態でMnO₄-は強い酸化力を発揮し、Mn原子は還元剤より電子5個を奪い取りMn2+に変化します。

② MnO₄- + 5e- → Mn2+
③ MnO₄- + 8H+ + 5e- → Mn2+
④ MnO₄- + 8H+ + 5e- → Mn2+ + 4H₂O  ・・・ ⓐ

〈還元剤の例〉
(COOH)₂
① (COOH)₂ → 2CO₂  ( C³+ → C⁴+
シュウ酸分子中のC原子の酸化数は+3です。これは、C原子の価電子がO原子に奪われ、便宜上3価の陽イオンC³+になっていると考えます。二酸化炭素中のC原子の酸化数は+4となり、C原子は電子1個を放出します。

② (COOH)₂ → 2CO₂ + 2e-
③ (COOH)₂ → 2CO₂ + 2e- + 2H+ ・・・ ⓑ

 酸化還元反応式(イオン反応式)は酸化剤と還元剤のそれぞれの半反応式から電子を消去することで得られます。

 ⓐ×2+ⓑ×5より
2MnO₄- + 6H+ + 5(COOH)₂ → 2Mn2+ + 10CO₂ + 8H₂O


③ 中和反応の量的関係

酸と塩基が過不足なく完全に中和するとき

酸のH⁺の物質量 = 塩基のOH⁻の物質量

 上の関係式が成り立ちます。例えば、1〔mol/L〕のNaOH(強塩基、α=1とする)水溶液1〔L〕中には、OH⁻は1mol存在しますが、これを中和するとき1〔mol/L〕のHCl(強酸、α=1とする)は1〔L〕必要となります。それでは、1mol/LのCH₃COOH(弱酸、α=0.01)水溶液では何〔L〕必要でしょうか?答はこの場合も1〔L〕です。
1〔L〕のCH₃COOH水溶液中にはH⁺は0.01molしか存在しませんが、その0.01molのH⁺が0.01molのOH⁻と反応してH₂Oが生成し、いったんH⁺が0となると考えます。しかし、CH₃COOH水溶液中の未反応のCH₃COOH分子(0.99mol)がすぐにその100分の1だけ電離し、再びOH⁻と反応しH₂Oを生成し、また、H⁺は0となりますが、すぐに未反応のCH₃COOH分子がその100分の1だけ電離して・・・このような反応が便宜上繰り返されていると考えると、結局、電離度α=0.01のCH₃COOH水溶液であっても1〔L〕中のCH₃COOH分子が1molのH⁺を放出することになります。したがって、中和反応の量的関係においては電離度は関係なく、酸・塩基の水溶液どうしの反応では次の公式が成り立ちます。
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ただし、強塩基を強酸で中和した場合と弱酸で中和した場合とでは中和点での液性が異なります。すなわち、前者の場合、水溶液は中性となりますが、後者の場合は生成した塩の加水分解により弱塩基となります。

 最後に少し難しくなりますが、NaOHとNa₂CO₃の混合物をHClで滴定する場合を考えてみましょう。

この滴定においては、下の3つの反応(①、②、③)が起こります。
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問題集や参考書によっては、第一中和点において①、②の反応が同時に完結するかのような曖昧な表現になっているものをしばしば見かけますが、実際には①の反応、すなわち、NaOHのOH⁻とH⁺の中和は3つの中和反応のなかで最も速く反応が進みます。したがって、①の反応が終了した時点で大半のNa₂CO₃は中和されず、未反応のNa₂CO₃の加水分解により、水溶液はかなり強い塩基性になっています。そのため、①の中和反応による急激なpHの変化、いわゆる、pHジャンプは認められず滴定曲線はなだらかな右下がりの曲線になっているのです。

 第一中和点は②の反応の終点を表しています。この中和点では生成したNaHCO₃の加水分解により、水溶液はわずかに塩基性になっています。第一中和点以降に滴下されたHClは③の中和反応に使われ、③の反応の終点が第二中和点になります。第一中和点から第二中和点のあいだに滴下したHClの物質量は③の反応式よりNaHCO₃の物質量、すなわちNa₂CO₃と等しくなります。

 上の例は定性的な解説になっていますが、内容をよく理解して頂ければNaClやNa₂CO₃の物質量を求める計算問題も簡単に解けると思います。入試や模試にはよく出題されますから、ぜひ、チャレンジして下さい。


今回は理論化学の中でも重要な位置を占める酸・塩基と中和反応について説明したいと思います。

① 酸・塩基の定義
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② 酸・塩基の強弱

 酸・塩基の強弱は、電離度(α)によって決まります。すなわち、αが大きい(1に近い)ものが強酸(強塩基)であり、αが小さい(0に近い)ものが弱酸(弱塩基)となります。
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〈捕捉①〉HNO₃、H₂SO₄以外はハロゲン化水素です。HFは水素結合により数個の分子が会合しています。したがって、水素結合に関与して会合分子(一つのかたまり)を作っている状態では、H原子は電離できませんから、電離度が小さくなるのです。
*5月号でも触れましたが、HFが弱酸であることは、会合説以外の考え方で説明されることもあります。

〈捕捉②〉上の電離度を表す式において、分母は溶かした電解質~となっていますが、塩基の場合NH₃(分子)を除くと、すべてイオン結合をしていますから、溶けた物質はすべて電離します。ですから、上の式は塩基については、少し正確さを欠いた表現になっています。したがって、水によく溶ける塩基が強塩基であると考えればよいでしょう。ちなみに、水によく溶ける塩基をアルカリといいます。

〈捕捉③〉酸・塩基の強弱は、後に学習する塩が加水分解したときの水溶液の液性に関係しますので、必ず覚えておいて下さい。

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